認知症

認知症とは

認知症とは認知症とは、脳の病気、障害、生活習慣病などを原因・要因とし、脳の認知機能が低下することで、日常生活においてさまざまな支障をきたすようになった状態のことを指します。
脳の神経細胞が障害されることで、記憶障害(物忘れ)、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、失語、失認識、失行などの多様な症状が現れます。
患者様ご本人だけでなく、ご家族様、介護をする方にとってもご負担の大きなものであり、予防と早期発見・早期治療が非常に重要になります。

認知症の種類

普段の会話の中では「認知症」とひとまとめにして呼ぶことがほとんどですが、医学的にはいくつかの種類に分けられ、原因や症状が異なります。
ここでは、四大認知症の概要と原因についてご紹介します。

アルツハイマー型認知症

認知症の中でももっともよく見られるタイプで、全体の半数以上を占めています。男女別の発症率では、やや女性が高くなります。
アミロイドβ、タウといったたんぱく質が脳に溜まり、神経細胞が障害されます。その主な原因としては、生活習慣の乱れおよび生活習慣病、遺伝が挙げられます。

レビー小体型認知症

アルツハイマー型認知症に次いで多いのが、レビー小体型認知症です。男女別では、男性に多くなります。
レビー小体と呼ばれる異常なたんぱく質が脳に溜まり、神経細胞が障害されます。アルツハイマー型認知症と比較して画像検査で確認される脳の萎縮は軽度と言われています。それ以上の根本的な原因については、未だはっきりしたことが分かっていません。

脳血管性認知症

レビー小体型認知症と同程度の頻度で見られるのが、脳血管性認知症です。男女別では、やや男性の割合が多くなります。
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血を主な原因とします。障害された脳の部位によって、症状が異なります。アルツハイマー型認知症を合併するケースも少なくありません。

前頭側頭型認知症

タウ、TDP-43といったたんぱく質が溜まり、前頭葉と側頭葉を中心に神経細胞が障害されて発症する認知症です。それ以上の根本的な原因については、はっきりしたことが分かっていません。
画像検査ではそれぞれにはっきりとした脳の萎縮が認められます。

認知症の症状

認知症の症状は、認知症の種類によって異なります。

アルツハイマー型認知症の症状

物忘れにはじまり、症状がゆっくりと進行します。

  • エピソードや約束したこと自体を忘れてしまう、何度も同じ話をする、昔のことを覚えているのに数分前のことを忘れてしまう(記憶障害)
  • 日付や時間が分からない、季節外れの服装をしてしまう、自分が今どこにいるのか分からなくなる、自宅のトイレの位置が分からなくなる、家族を他人と間違える(見当識障害)
  • 料理や片付けなどこれまで問題なく実行できていた物事の手順が分からなくなる(理解・判断力の低下)
  • 物事を計画的・効率的に実行できなくなる、何かで何かを代用するなどの柔軟な対応ができなくなる(実行機能障害)
  • 口腔やのどに問題がないのに言葉が出てこない、人の言葉が理解できない(失語)
  • 目、鼻、耳、皮膚などに問題がないのに事象の認識ができない、正しく感知できない(失認識)
  • 運動機能に問題がないのに服を正しく着ることができない、ボタンが留められない、鍵の開け閉めができないなど行動が障害される(失行)

レビー小体型認知症の症状

多くの場合、調子の良い時期と悪い時期を繰り返しながら進行します。また時に、急速に進行します。

  • 家族にお金を盗まれたなどの誤った思い込み、知らない人が家の中にいるなど見えないものが見える(妄想・幻視)
  • 手の震え、動作緩慢、筋肉のこわばりなどの運動機能障害(パーキンソン病の症状)
  • めまい、立ちくらみ、失禁、失神(自律神経の障害)
  • 眠りが浅い時に暴れ出す、大声をあげるなどの睡眠時の異常行動(レム睡眠行動障害)

脳血管性認知症の症状

症状が緩やかに進行するケースもあれば、急速に進行するケースもあります。脳梗塞・脳出血・くも膜下出血によって障害された部位によって、出現する症状も異なります。

  • 歩行障害、転倒
  • 手足の麻痺
  • 呂律が回りにくい
  • 頻尿、尿失禁(排尿障害)
  • 抑うつ
  • 感情がコントロールできず、急に怒り出す・泣き出す(感情失禁)
  • 夜になると日中とは別人格のような言動をする(夜間せん妄)

前頭側頭型認知症の症状

多くは、症状がゆっくりと進行します。ただ他の認知症と比べて、やや症状の種類が特徴的です。

  • 身だしなみに無頓着になる、万引き等の軽犯罪をしてしまう(社会性の欠如)
  • 相手への配慮が困難になる、暴力をふるってしまう、度を越した悪ふざけをしてしまう(感情の抑制の困難)
  • 他人に共感できない、感情移入ができない(感情鈍麻)
  • 同じような動作を繰り返す、同じ道順で歩き続ける
  • オウム返し、同じ言葉を繰り返す、言葉の意味を理解できない、人や物の名前が出てこない(言語障害)

認知症とアルツハイマー病の違い

まず「認知症」とは、ここまでにご紹介したアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症などのことを指します。そして認知症の1つ、アルツハイマー型認知症の原因疾患が、「アルツハイマー病」です。
つまり正確に言うと、「認知症のうちの1つにアルツハイマー型認知症があり、その原因疾患がアルツハイマー病である」ということになります。
ただ現在、アルツハイマー型認知症とアルツハイマー病は同じ意味で使用されています。そのため実際には、「認知症のうちの1つにアルツハイマー型認知症(=アルツハイマー病)がある」と考えて差し支えありません。

「認知症による物忘れ」と「老化による物忘れ」の違い

認知症の症状の1つに、物忘れがあります。一方で、認知症でない人が老化によって物忘れをすることもあります。
ここでは、認知症による物忘れと、老化による物忘れの違いをご説明します。

認知症による物忘れ

典型的なのが、ある体験を丸ごと忘れてしまうという症状です。ご飯を食べたこと自体、買い物に行ったこと自体を忘れてしまうといったような物忘れです。また、「さっき食べたじゃない」「ほら、〇〇を買った時」など指摘されたり、ヒントを与えられても、思い出せません。

  • ある体験を丸ごと忘れている
  • 指摘されたり、ヒントを与えられても思い出せない
  • 日付、曜日などが分からなくなる

老化による物忘れ

認知症による物忘れとの大きな違いは、ある体験の一部のみを思い出せない、という点です。昨日の夕食のおかずが何だったか思い出せない(夕食を食べたことは覚えている)、買い物に行って何を買ったか思い出せない(買い物に行ったことは覚えている)等です。また、「魚を食べたでしょう」と指摘されたり、「孫のプレゼントに…」とヒントを与えられると、思い出すことができます。

  • ある体験の一部だけを思い出せない
  • 指摘されたり、ヒントを与えられると思い出せる
  • 日付、曜日を間違えることがあるが、確認すれば思い出す

ただ、特に初期の認知症の場合には、認知症による物忘れなのか、老化による物忘れなのか、判断が難しいことが大半です。以下に1つでも該当する場合には、認知症による物忘れを疑い、お早めに当院にご相談ください。

  • 物忘れの頻度が増えた
  • 約束を破ってしまうことが増えた
  • 間違いを指摘されてもどうだったか思い出せない
  • 記憶に自信がなく相手に合わせて喋ってしまう
  • 家族に指摘された

認知症テスト(自己診断チェック)

簡単にできる認知症のテストです。
10個の質問に回答し、合計点数が20点以上の場合には、認知症が疑われます。お早めに当院にご相談ください。

質問 全くない ときどきある よくある いつもそうだ
①財布、鍵などを自分で置いたのに場所が分からなくなることがありますか? 1点 2点 3点 4点
②5分前に聞いた話を思い出せなくなることはありますか? 1点 2点 3点 4点
③まわりの人から「いつも同じ話をしている」と言われることがありますか? 1点 2点 3点 4点
④今日が何月何日なのか分からなくなることがありますか? 1点 2点 3点 4点
⑤言おうとしている言葉がすぐに出てこないことがありますか? 1点 2点 3点 4点
  できる だいたいできる 自信がない できない
⑥預金の出し入れ、家賃・公共料金の支払いを自分1人でできますか? 1点 2点 3点 4点
⑦1人で買い物に行けますか? 1点 2点 3点 4点
⑧1人で電車、バスに乗って目的地に到着できますか? 1点 2点 3点 4点
⑨掃除機、ほうきなどを使って自分で掃除ができますか? 1点 2点 3点 4点
⑩携帯・スマホ、電話帳などで電話番号を調べて、電話をかけることができますか? 1点 2点 3点 4点

認知症の治療薬・予防について

治療薬について

認知症の根本的な治療薬というものは、まだありません。治療では、認知症の進行を抑えることを大きな目的とします。
当院では、従来からあるお薬と、新しく登場した新薬を使用します。認知症のタイプだけでなく、患者様のお身体やこころの状態、ご家族の負担、副作用などを考慮した処方を行います。

レカネマブ(商品名:レケンビ)

適応となるのは、軽度のアルツハイマー型認知症、または認知症を発症する前の軽度認知障害です。2023年、原因物質に働きかける作用を持つ薬として国内で初めて承認されました。
アルツハイマー型認知症において脳内に溜まる異常なタンパク質、アミロイドβを取り除くことで、症状の進行を抑えます。
従来薬の“症状を一時的に軽くする効果”ではなく、“進行を抑える効果”が期待されています。
2023年12月から大学病院などの専門施設で治療が開始され始め、大変注目されています。

アリセプト

認知症の薬として、もっとも古くから使われています。適応となるのは、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症です。なお、レビー小体型認知症においては、唯一承認されている薬となります。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の1つで、アセチルコリンという神経伝達物質の分解・減少を防ぐことで、脳のネットワークの維持を図ります。
普通の錠剤、水なしで口の中で溶ける錠剤、細粒、ドライシロップ剤、ゼリー剤などがございますので、内服が苦手な方でも受け入れてくれやすいのが特長です。

レミニール

アルツハイマー型認知症の治療薬です。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の1つで、アセチルコリンの分解と減少を防ぐことで、脳のネットワークの維持を図ります。
普通の錠剤、水梨で口の中で溶ける錠剤、内用液のいずれかで内服していただきます。

イクセロンパッチ・リバスタッチ

アルツハイマー型認知症の治療薬です。
アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の1つですが、特徴的なのは飲み薬ではなく貼り薬という点です。内服が苦手・嫌がる患者様に適しています。
イクセロンパッチ、リバスタッチはメーカーが異なるだけで同じ薬となります。

メマリー

アルツハイマー型認知症の治療薬です。
脳内でのグルタミン酸の働きや神経伝達を安定させたり、神経細胞を保護する作用のあるNMDA受容体拮抗薬です。現在、メマリーのみがNMDA受容体拮抗薬として承認を受けています。
イライラなどの精神の不安定がある場合も、気持ちを穏やかにしてくれる効果が期待できます。患者様だけでなく、ご家族様のメリットも大きくなります。

予防する為に普段からできること

認知症は、以下のような取り組みによってその発症リスクを低減させることが可能です。
なお、認知症を発症する前の「軽度認知障害」については、新薬であるレケンビの適応となります。

生活習慣病の治療をきちんと受ける

生活習慣病は、血流の低下や脳の機能低下を招きます。
糖尿病、高血圧症、脂質異常症と診断された方は、信頼できる医療機関で、適切な治療を受けましょう。

栄養バランスの整った食事を摂る

栄養バランスに気をつけて食事を摂りましょう。特に、身体の老化を防ぐ働きを持つ緑黄色野菜、脳梗塞などのリスクを下げる青魚などを積極的に食事に取り入れましょう。

適度な運動の習慣

ウォーキング、水泳などの適度な運動は、動脈硬化や循環器疾患の予防につながります。また、転倒の原因となる筋力低下や、活動性の低下なども防ぐことが可能です。

過度の飲酒、喫煙を避ける

認知症予防の観点からは、飲酒・喫煙は完全に禁止するほどのものではない、とされています。
もちろん、無理なく禁酒・禁煙ができるようであればそれが理想です。

活動や思考が単調にならないように生活する

定年退職後など、活動や思考が単調になりがちです。運動、家事、買い物、掃除、遠出、芸術鑑賞など、適度な刺激を日々の生活に取り入れましょう。

生きがいを持つ

特別なことでなくて構いませんので、「これがやりたい・挑戦したい」という気持ちに従い、毎日を積極的な気持ちで過ごしましょう。趣味、ボランティア、仕事など、何でも構いません。

人間関係を大切にする

家族、親戚、隣人、趣味のサークルなどでの人間関係を大切にしましょう。閉じこもり、うつなどの予防にもつながります。そして何より、毎日を楽しく過ごせます。

健康を自己管理する

健康診断や人間ドックを受ける、症状がある時は医療機関を受診するということに加え、食事・運動などに気をつけて「自分で健康を管理する力」をつけましょう。

病気・ケガ・障害の予防や治療に努める

病気やケガ、障害を防ぐための身体づくりに努める一方で、治療が必要になった時にはきちんと治療を受けましょう。

寝たきりにならないように努める

寝たきりは、認知症発症・悪化の要因になります。
転倒や骨折がきっかけとなりやすいため、運動機能を維持することが大切です。また、骨折の原因となる骨粗鬆症の予防にも努めましょう。

認知症を予防する食べ物がある?

認知症を予防する食べ物がある?栄養バランスの良い食事を摂ること、特に身体の老化を防ぐ働きを持つ緑黄色野菜、脳梗塞などのリスクを下げる青魚などがおすすめなのは、先述した通りです。
酸化や生活習慣病、動脈硬化を予防することが、認知症の予防につながります。 その他にも、認知症の予防としておすすめしたい食品がございますので、摂り過ぎを避けるべき食品と併せて、ご覧ください。

認知症の予防効果が期待できる食品

  • 緑黄色野菜をはじめとする野菜全般
  • 根菜類
  • ナッツ類
  • 豆類
  • 青魚
  • 全粒穀物
  • 鶏肉
  • 味噌汁
  • オリーブオイル
  • ワイン

摂り過ぎを避けるべき食品

  • 赤身肉、加工肉
  • チーズ
  • バター、マーガリン
  • 菓子パン
  • スナック菓子
  • スイーツ、和菓子
  • 揚げ物
  • ファストフード
  • 麺類のスープ
  • 清涼飲料水、甘い缶コーヒー